40代子持ちのクルマ好きが、愛車のBMW 320dツーリングを評価するとともに、ちょっとだけ日々を楽しくするクルマのある生活の話題をお届けします。

BMWのECO PROモードは本当にエコか?

BMWのATには「ECO PRO」というモードがあり、省燃費運転ができるようになっています。果たして本当にエコなのでしょうか?

ATのモード切替

私の320dはデザインラインの「スポーツ」なので、ATのモード切替が4つあります。

  • COMFORT(デフォルト)
  • ECO PRO
  • SPORT
  • SPORT+

このうち、SPORT+はM Sportとデザインライン「スポーツ」のみの設定です。

COMFORT

COMFORTはエンジンをかけた際に最初に設定されているモードで、一番一般的な設定です。

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タコメーターの下が瞬間燃費計になっています。

ちなみに、これは夜のメーターです。実際はもっと文字の表示とか赤っぽいんですが、なぜ赤いのかご存知ですか?

暗いところに慣れた目(暗順応といいます。)って、白色系の光を見ると暗順応が戻って暗いところがまた見えなくなります。これが赤だと暗順応を壊さないんだそうです。

よく映画で潜水艦ものとか見ると照明が赤いですよね?あれです。

SPORT、SPORT+

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左がSPORT、右がSPORT+です。メーター自体はあまり変わらず、瞬間燃費計の上のシフトインディケーター(Pと表示されているところ)の横にそれぞれモード名が出ています。

SPORT+ではそれに加えて、DSCではなくDTCがONになっているのでタコメーターの左側にDTCの表示が出ています。

ちなみにDSC(Dynamic Stability Control)はいわゆる横滑り防止装置です。普段はONになっていますが、DTC(Dynamic Traction Control)をONにするとDSCは解除されてDTCが優先されます。

どういうことかというと、ある程度横滑りやホイールスピンを許容して、アグレッシブな走りができるようになるということです。ですのでSPORT+ではDSCではなくDTCがONになるんですね。

ご参考ですが、雪道を走る際にはスタッドレスタイヤを履いている場合でもDTCをONにします。そうでないと、DSCがスリップを検知したとたん前に進めなくなります。

この二つのモード、DSCとDTCの違いのみでエンジンなどの制御は一緒ですが、COMFORTから切り替えると驚くほどクルマが豹変してわかりやすいです。結構な高回転までシフトしなくなりますし、アクセルをちょっと緩めてもすぐにはシフトアップしません。

ですので、山道を登っていくときなどは結構ストレスを感じず、快適に走れます。COMFORTだとすぐにシフトアップしちゃって、カーブからの脱出でアクセルを踏み込んだ時に一々シフトダウンして煩わしいんですよね。

ECO PRO

ECO PROに切り替えると、メーターが以下のように変わります。

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タコメーターの下が瞬間燃費計ではなく青色の帯になってます。これはアクセル開度を表すもので、ある程度アクセルを開けすぎると右側にアイコンが出てアクセルを戻すよう促されたりします。

また、ちょっとわかりにくいですがタコメータとスピードメーターの間の下の方、3列の表示の真ん中が青字になっていますが、これは「ECO PROボーナス」といって、COMFORTではなくECO PROで走ることによって、同じ燃料量でどのくらい多く走れたかを表しています。

ECO PROモードではBMWによるとエンジンだけでなくエアコンなどの補器類も総合的に制御して最適な省燃費走行を実現できることになっています。この制御はiDriveで設定できて、デフォルトではエアコンの制御がONになっていて、停止してアイドリングストップした時には、アイドリングストップの時間を少しでも長くしようとするかのようにエアコン吹き出し口からの風が弱くなります。

また、2014年モデルから実装された新しいECO PROモードの機能として見逃せないのが「セーリング」という機能です。

これはすでにポルシェなどにも実装されていますが、アクセルを離すと駆動系がエンジンから切り離されて空走する機能です。マニュアル車でクラッチを切った状態と考えればわかりやすいかと思いますが、この時エンジンはアイドリング回転数まで下がって負荷がかからない状態で走っているので燃費がよくなるんですね。

BMWでは60km/h以上で走行中にアクセルを離すと、一気にエンジン回転が落ちて空走し始めます。ここでシフトレバーを操作してエンジンブレーキをかけるか、ブレーキを踏むか、或いは50km/hまで速度が落ちると、エンジンと駆動系が再度繋がって空走が終わります。これをうまく使うと結構燃費が良くなる、優れた機能です。

ところがこのセーリング機能はデフォルトではOFFになっていますので、iDriveで設定してあげる必要があります。

MENUの一番下にある「Efficient Dynamics」をクリックして進むと「セーリング」の横のチェックボックスが空欄になっていますので、コントロールダイヤルをクリクリ回して「セーリング」に合わせたらクリック。これでセーリング機能が有効になります。

ECO PROモード、何がどう違う?

ECO PROとCOMFORTの運転感覚の違い

ECO PROモードで走ると、結構な低回転でシフトアップしていきます。ですがこれは決して低い速度からどんどんシフトアップしていって発進が遅いということではありません。

320dはその低回転域の大トルクをいかして320iよりはるかにハイギアードな設定になっています。スペック上は同じ8ATでも、320iは70km/h超のところで8速に入りますが、320dでは90km/hでやっと8速に入るといった感じです。

ですので、できるだけ低回転でシフトアップしていくといっても速度はそれなりに乗っており、ECO PROモードでも一般道で信号の先頭になって流れをリードするのは容易です。

そして一番違うのはアクセルに対する反応です。よく、クルマ雑誌やネットでは「アクセルに対する反応が鈍い」と表現されておりますが、要するに昔のドイツ車さながらの、低回転域でのコントロール性を重視した設定になっているんです。

これは私はCOMFORTと比べただけでなく、218dグランツアラーを試乗してわかったのですが、3シリーズのCOMFORTモードはだいぶ非線形になっています。つまり、アクセルの踏み始めで大きく開くようにしてあって軽快感を出しているんです。218dはよりその傾向が強く、私の320dと同じ感覚で踏んだら随分と元気な発進をしました(笑)。523dも試乗したことがありますが、こちらは3シリーズよりも非線形度合いが弱く、結構アクセルを踏まないと元気に発進しません。

実はドイツ車って、非線形じゃない方がむしろ従来の姿なんです。よく言われるのが昔のメルセデスのアクセルですが、重い上に結構深く踏み込まないと加速しないので、パワーがないという誤解を受けたようです。ですが低回転域や常用域での細かいコントロール性は抜群です。

そもそもこのようにアクセル開度を非線形にして発進を勢い良くさせるというのは、かつて低回転域でのトルクが乏しかった日本車がとった手法なんですよね。今やドイツ車が宗旨替えしてこのようなセッティングになっているのはちょっと寂しい気がします。細かいコントロールはACCのような前車追従デバイスに任せればいいという考え方なのかもしれませんね。

余談が過ぎました。本題に戻りましょう。

できるだけ低回転域を保ってシフトアップしていくECO PROモードは、低回転域でのトルクが太い直噴エンジンの特性に合っていると思います。ガソリン・ディーゼルにかかわりなく、最近のダウンサイジングエンジンというのは、直噴ターボ化することで低回転域のトルクを太らせ、その領域を常用することで低燃費を実現しています。ですので、高回転まで回して走ると昔ながらのターボエンジン同様、燃費がかなり悪化します。

この低回転域の効率の良い部分というのは、320dの場合はどうも1300回転くらいから2000回転くらいまでのようです。巡行している場合には1300-1500回転くらいが一番燃費よく走れます。

最大トルクを発生するのは1700回転くらいから2700回転くらいまでですが、ターボエンジンってそういう最大ブースト圧がかかる部分よりも、ターボが「ちょっと効いている」くらいの部分が燃費がいいと言われているので、上記は大体そういう領域なんだということでしょう。

8速ATの存在なしには語れない

走っているスピードにかかわらずこの効率的な領域を保つのって結構大変です。

BMWの8速ATは既に各クルマ雑誌で絶賛されていますが、私が実際運転した感触としても、どの速度域でも最も効率の良い回転域を大きく外れないよう、きめ細かに、かつ滑らかにシフトアップ・ダウンを繰り返すさまはまさに黒子、縁の下の力持ちです。

現在のBMWの低燃費はこの8速ATあってこそと思いますし、いざモードをSPORTなどに切り替えても違和感を感じず積極的に一番力強く走れる領域を選ぶように性格を変えるさまは見事の一言に尽きます。そして、そんな場合でもシフトのスムーズさは全く失われません。

結論:ECO PROは本当にエコ、でもそれは8速ATあってこそ!

一番端的にECO PROモードの恩恵を感じられるのは高速走行よりも市街地を走行しているときです。私の走行パターンですと、燃費を全く意識せずに走ってECO PROでは11ー12km/lくらい、COMFORTでは9-10km/lくらいになります。また、メーターで表示されている「ECO PROボーナス」も市街地走行時のほうが多く表示されています。

それにしてもこの8速AT、本当に秀逸です。アクセルの踏み方ひとつで省燃費にもスポーティにも性格を変えるって、言葉でいうのは簡単ですが並大抵ではないですよ。

普段その働きを意識することはありませんが、経済性と駆け抜ける喜びを両立させるこの8速ATこそが、現在のBMWのスローガン「Efficient Dynamics」を最も具現しているような気がしてなりません。

ここまで長々と読んでいただきありがとうございました。

今回はこの辺で失礼いたします。