今ではすっかり日本で市民権を得たディーゼルですが、日本にも優秀なディーゼルエンジンを作っている会社があります。そう、マツダですね。SKYACTIV-Dと銘打ったマツダのクリーンディーゼル、侮れませんので比較してみようと思います。
なぜマツダ?
日本の自動車メーカーもヨーロッパで商品展開をしている関係上、それなりにディーゼルエンジンは作っています。ですが、ヨーロッパ車に引けを取らぬ高性能ディーゼルエンジンといえば、マツダです。一連のSKYACTIVテクノロジーは、HVやPHVと行った飛び道具に頼ることなく環境性能を引き上げ、さらにクルマ本来の楽しみも追求したとして非常に評価が高いですよね。
この飛び道具を使わずに、というところがマツダの真面目さを如実に表していると私は思っています。
実際、320dを検討される方は一度はマツダ・アテンザも検討するのではないでしょうか?
マツダのディーゼルエンジンの特徴
マツダのディーゼルエンジンも、基本的な成り立ちはBMWと同じです。
すなわち、第3世代コモンレールシステムによる直噴ディーゼルで、可変ジオメトリーターボを備え、NOxの後処理装置を必要としないクリーンな排気を実現したディーゼルです。
マツダのディーゼルエンジンのクリーンさというものはどのように実現されているかというと、一言でいうと低圧縮比です。と、なんだか以前ディーゼルエンジンの特性をご紹介した時とは違うことを言っているようですが、そうではないんです。
マツダのディーゼルエンジンの圧縮比は14.0と世界一低圧縮比なんです。ちなみにBMWは16.5。ですが、上でご紹介した記事ではむしろ、直噴化による高圧縮比化が流れであると説明していました。
ここがマツダのすごいところだと思うんですが、発想を転換したんですね。ディーゼルエンジンにおいては、高圧縮比で瞬間的に圧縮することで混合気の温度を上げて点火するのが常識です。これが低圧縮比になると、当然のことながら燃焼が安定しません。
そこを新技術、マルチホール・ピエゾ・インジェクターと可変排気システムで補ったんですね。
結果としてマツダは燃焼効率を高めることに成功し、BMWと同じく後処理装置を必要としないディーゼルエンジンを実現しました。もちろん、BMWと同じようにDPFはついていますが。
低圧縮比は他にもいい作用を生みます。その第一が、ノッキング音の低減による静粛性の確保です。これはどういうことかというと、大雑把に言ってしまうと、ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンでいうと常にノッキングを起こしながら走っていると考えられます。あの「カリカリ」というやつですね。圧縮比を低くすることによって、この音が抑えられます。
そしてさらに、エンジンがスムーズに回るようにもなります。これはノッキングを低減しているのですから当然といえば当然ですね。実際、市場の評価としてもBMWと同等かそれ以上にスムーズに回ると定評があります。
さすが日本のメーカー、日本のディーゼルアレルギーの本質がどこにあるのかわかっていますよね。要するに、環境性能もさることながら、音と振動、「ノロい」「回らない」という偏見の払拭を第一にしています。環境性能は、結局完全燃焼にできるだけ近づけて有害物質の排出を少なくすれば自ずと燃費の上がるというものですから、非常に良い、ユーザーの痒いところにてがとどくアプローチの仕方だと思います。
素晴らしいエンジンですね。BMWのクリーンディーゼル危うしです。
低圧縮比化のデメリット。
上でご紹介した記事中でも書いておりますが、ディーゼルとターボチャージャーの相性の良さは、高圧縮比が前提でした。つまり、低回転域でも高圧縮比のエンジンならば排気ガスがある程度の強さで廃棄されるので、タービンを回すのに十分な排気ガス流量が得られるということですね。
ということは、マツダの低圧縮比ディーゼルは・・・ご想像の通りです。低速トルク、細いですし、ターボが効くのが遅いです。
とまるで乗ってきたようなことを書いていますが、はい、私乗ったことがあるんですよ。以前当ブログの中で登場した、SONIC DESIGNのスピーカーを装着した知人が購入段階でアテンザとBMW320dで迷っていたので、付き合ってディーラーに行ったんです。
本当に短時間の試乗でしたが、比較対象が320dとはっきりしていたせいかよく覚えております。その時私は320iに乗っていたのですが、後に320dツーリングに乗り換える際の参考になったことは言うまでもありません。
で、どうだったかと言うと・・・
- 静かといえば静かかも。でも、BMWと比べて圧倒的に静かかと言うと・・・そこまで変わらない。むしろBMWは高圧縮比で同等レベルの静粛性を確保していることは評価するべき。
- 吹け上がりは、確かにBMWと甲乙つけがたい。
と言う感じですね。
ですがそれより何より、低速トルクの細さと吹け上がりの良さから感じたのは、「これはBMWの乗り味と似ているのではないか?」と言うことでした。
実際にそのあと320dに試乗してみると、BMWは極低回転域のトルクは細いものの、1500rpmくらいからの加速というか、いわゆる中間加速の鋭さがすごいものがありましたね。マツダのディーゼルは、スペック上は申し分ない(420Nm)のに力強さはBMWに軍配が上がりました。
肝心の燃費はどう?
厳密には車重が違うので純粋な比較はできないのですが、まあまあ似通った車重ながらやはりカタログ燃費は・・・ほとんど同じです(笑)。BMW320dが19.4km/L、アテンザは19.6km/L。もっとも、最新エンジンを積んだ320dは20km/L超えていますから、やはり高圧縮比による高効率がかろうじて勝利した、というところですね。実質的に差はありません。
クリーンさに問題あり。
どちらもクリーンです。
と言い切って終わりにしたいところですが、こればっかりはメーカーを信頼するしかありません。もちろん、VWのようなことはどちらもしていないと思いますが。
と歯切れが悪いのは、実はマツダのディーゼルが側を通り過ぎると・・・臭うんです、排気ガスが。私が自宅で320dのエンジンを始動しても何も匂いませんが、マツダのディーゼルは確実に匂います。
これは私には確認する手段がないので調べた情報をお伝えすることしかできないのですが、マツダのディーゼルは規制されているNOxを抑えるべく最大限努力しましたが、そのトレードオフとしてアセトアルデヒド系の物質が排出されているそうなんです。
アセトアルデヒドはあの、二日酔いの原因として有名ですね。一般には大気汚染物質とされ、独特の臭気があります。
うーん、これはどうなのでしょう?規制されていないから汚染物質を排出してもいいのかというと、しょうがない面はあるとはいえ、本質的にはVWの「テストモード」と同じような気もします。
ですが、現代の自動車メーカーって、多かれ少なかれそうですよね。だって、某巨大メーカの某大人気HV車のカタログ燃費と実燃費のかけ離れっぷりは有名ですが、これだって、JC08モードのテストの特性に合わせてエンジンをチューニングすればいい燃費出ますもんね。
ですので、現段階では目くじら立てて糾弾するほどのことではないと理解してはいるものの、釈然としないものが残ります。昨今の情勢をみると、企業に求められる企業倫理ってどんどん厳しくなっていくでしょうから、このままですと何年後かには糾弾される事項になってしまうかもしれません。
個人的には、とにかく匂いが気になるという時点でアウトですけど。
まとめ
いかがでしたでしょうか?エンジンの高性能ぶりでは全くBMWに引けを取らないマツダのSKYACTIV-D、かなりよくできています。
願わくば、多少コストを上げてでもアセトアルデヒドの後処理という対策をしていただければと思います。あるいは、どうせ後処理装置をつけるのであれば、元々の燃焼段階でNOxは出してもいいけどアセトアルデヒドは抑えるというようにして、NOxはアドブルーで処理する、というのも手としては考えられますよね。
個人的な好みでいうと、やっぱりBMWのディーゼルの力強さに惹かれます。というか、だからこそ乗っているんですが(笑)。
では、今回はこの辺で失礼します。ありがとうございました。