M2にMTが設定されて、報道で話題になっているのは既にご存知かと思います。概ね歓迎されているようですが、私の感想はちょっと違うんです。複雑な胸中を今日はご報告します。
一応概要を。
M2の6MTが日本でも11月生産分から導入されます。M-DCTドライブロジック搭載車より25万円安で、お値段は768万円から。
他のスペックはM-DCTドライブロジック車と全く一緒です。
心踊らないんですよね。
私はBMW好きとして、やはり一度はMのオーナーになってみたいという気持ちはあります。実際、Mは大好きで、分不相応にもToto BMWさんが設けてくださったMの高速試乗会にもお邪魔して、M3とM6の高速ドライブを堪能しました。
これは相当にエキサイティングな体験でしたし、すごく楽しかったです。
そして、M2はM-DCTドライブロジック搭載車にいち早く試乗させていただいてまして、これもかなり興奮ものの体験でした。思わず欲しくなりましたね。
それなのになぜ?とお思いになるかもしれませんが、今回のMT追加は全く心踊らないんです。
古典的な運転の楽しみはあると思います。
MT車を運転するのは確かに楽しいです。
現代の車にはない独特のリズム感に乗って、エンジンを意のままに操れますよね。今回のM2の6MTを駆使してワインディングロードを走ると同等楽しいと思います。
ですが・・・正直申し上げて、今回の決定は私には意味がよくわからないんです。というか、少なくとも私には全く魅力的ではありません。
各社が発表しているニュースを見ると、ブリッピング機能がついている!と書いてありますよね。
これは報道のミスリーディングなところでして、これを読んだ読者の方は、「じゃあM-DCTドライブロジックにはついていないのか」と思うはずです。
上でご紹介したM2試乗の記事を読んでいただければお分りいただけますが、ちゃんとM-DCTドライブロジックでも、シフトダウン時に派手にブリッピングします。
BMWのプレスリリースにそのように書いてあるから記事として載せているんでしょうが、うがった見方をすると、それ以外に売りはないのか?と思ってしまうんです。私の中のブラックpontaが耳元でそのように囁いています。
せっかくM-DCTドライブロジックがあるのに。
M-DCTドライブロジックって、すごくよくできたロボタイズドMTです。通常のトルコンATのようにスムーズなシフトを実現していますし、操作に対する反応も抜群。これぞ意のままにエンジンを操ることができるトランスミッションだと感じました。
私は古典的なものも好きですが、元来が新しいもの好きですので、M-DCTドライブロジックの方が新鮮に感じるというのもあります。それ以上に「憧れ」もあるんです。
クルマへの憧れの入り口って色々あると思います。実用に使うだけで楽しいという方もいらっしゃるでしょうし、常にピリピリとしたサーキットの雰囲気の中にいないと面白くない、という方もいらっしゃるでしょう。
私はどうかというと・・・中庸です(笑)。というか、人並み(クルマ好きの方の中で、という意味で)にレースを見るのは好きですし、F1は一時期は眠い目をこすってでも見ていたものです。いまでも、テレビの中継があるときはせめてスタートだけでも見たりしています。
私がクルマに興味を持ち出した年齢の頃のF1といえば、アイルトン・セナを中心に、日本でもF1人気が高まっていた頃でした。テレビで見るオンボード映像に興奮し、ホンダミュージックに酔いしれ、モナコGPは手に汗握りセナとマンセルのテールトゥノーズのバトルを見た世代です。
そんな私にとっての憧れって、F1のオンボード映像で感じられるスピード感と音でした。エンジン音は今でも甲高いエンジン音の方が好きですし、鈴鹿の130Rの脱出からシケインへのアプローチでの連続したシフトダウン音は特にかっこよくて憧れましたね。もちろん、シフトアップしていくときにエンジン音が途切れないことにも衝撃を受けました。
その頃はまだ市販車には今のようなロボタイズドMTは搭載していませんでした。いえ、正確にいうとフェラーリだけは搭載していましたが、そんなの買えるわけもありませんでしたので、VWが最初に出した時にはえらく興奮したものです。
私が再三再四、スポーツATのパドルシフトをお勧めオプションとしてご紹介している理由の一つは、このロボタイズドMTへの憧れ、もっといえばあのF1への憧れもあるんです。
その後、日本車でも採用されるのを楽しみにしていたのですが、日本車は意に反してミニバンとCVTというガラパゴスな世界に没入していき、一気に興味を失いました。
そしてBMWに出会って惚れ込むわけですが、心の中には常にあの、F1が良かった時代の映像が、憧れとしてあったんです。
そんな私にはM-DCTドライブロジックは夢のトランスミッションなんです。
ですから、ここでMTを出されても振り向かない、というのはご理解いただけるかと思います。
もう一つ、これはサーキットでわかったのですが・・・。
Toto BMWさん主催のイベントで、本庄サーキットで340i M Sportを運転した体験のことは以前紹介しました。
そのあと、現役レーサーの隣に座ってサーキット走行を体験する機会にも恵まれました。
この時に悟ったんですが、本気で早く走ろうと思ったらMTをクリクリ操作している余裕はないんです。
攻めようと思ったら、私が同乗したレーサーさんのように、まだコーナー脱出前でも強引にトラクションをかけて脱出加速を開始する、という運転も必要ですが、その時にMTでシフトする余裕は・・・私には確実にないですね(笑)。
こうした時にM-DCTドライブロジックだったら楽しかっただろうなあ、と思いました。もちろん、普通のATにパドルシフトでも楽しいのですが。
楽しいとは思うんです。でもでも。
誤解しないでいただきたいのは、それでもかなり楽しいだろうなあ、と思うんです。こんなハイパワー車をマニュアルシフトを駆使して意のままに操れたら、爽快感抜群でしょう。
そして、そうしたドライビングプレジャーを求めるユーザーに答えるところはBMWらしいと思います。
ですが、それでもまだ思うのは、NEXT100yearsを標榜しているBMWとしては、もっと新しい提案が欲しかったんです。なんだかもっと、スポーツドライバーがワクワクするような、何か。
それはきっとユーザーが思いもよらないもので、最初にiDriveが世に出たときのような戸惑いを世間に巻き起こすかもしれませんし、ビジネス的には成功はしないかもしれません。
ですがそうした進取の気性をなくしたらそれこそ私が期待するBMWではなくなってしまいます。
今回MTが設定されたのは、市場からの要望によることも多かったのだと思います。まあ、M2のように振り回せる人には振り回せるクルマには、MTは非常にマッチするということは頭ではわかっています。
でも、私の憧れの世界とは違うんですよね。
今日はちょっと毒を吐いてしまいましたが、嘘偽りのなく私が考えていることです。
では、今回はこの辺で失礼します。ありがとうございました。