ALPINAとM、BMWの高性能版としてよく名前を聞いたことがおありだと思います。よく、Mはご存じでもALPINAをご存じない方がいらっしゃいますが、それはとても勿体無いので軽くご紹介させていただきます。
Mは・・・さすがにご存じですか?
最近ではM2や、M4GTSなどの通常のMのさらなる高性能版で話題ですね。
M社は正式にはBMW M Gmbh(Gmbhはドイツ語で有限会社の意味)は、BMWの研究開発を行うBMWの関連会社でして、その前身はBMWモータースポーツ社で、かつてはブラバムBMWなどでF1にも参戦していました。
M2やM3などのモデルはこのM社が生産している・・・・のではありません!現在はBMW本社が生産を担当しており、実はM社はBMW Individualなどのスペシャルモデルしか生産していないんですよ。
ALPINAは?子会社?
ALPINAは私が一番好きなメーカーの一つです。
私、今さらっと「メーカー」と言いましたけど、ALPINAはれっきとした自動車メーカーとしてドイツで登録されています。チューナーではないんですね。
そしてALPINAの始まりはブルカルト・ボーフェンジーペンさんという人が、1961年にBMWをチューニングしたことに始まります。これが評判を呼び、早くも1964年にはBMWからの公認を得ると、1968年ごろからドイツ国内のみならずヨーロッパのツーリングカー選手権で活躍し、数々のタイトルを総なめにします。
1980年代には最も過酷と言われるDTM(Deutsche Tourenwagen Meisterschaft、ドイツツーリングカー選手権)に、BMWモータースポーツ社のワークスチームに次ぐ準ワークスチームとして参戦し、数多くのタイトルを獲得します。ちょうどこの頃が、BMWは初代M3(E30)とメルセデス・ベンツ190E 2.3-16や2.5-16などで鎬を削っていた頃ですね。当時、アルファ155が好きだったのですが、BMWのあまりの強さが憎らしいくらいに思えたのを覚えています。
ところが小規模メーカーであることから、80年代後半には市販車生産に専念するためにレース活動から撤退してしまいます。その後も非常に高い技術を持つマイスター集団であり続け、BMW の市販エンジンをベースに大変手の込んだチューニングを施し、豪華な内装を与えたスペシャルモデルを生産するメーカーとして名声を博しています。
今でもALPINAはBMW本社とは資本関係は全くない、独自路線を行く会社です。ですがALPINAのクルマはBMWの保証も受けられますし、何より新車開発のかなり早い段階からBMW はデータをALPINAに渡し、BMWの新車発表からほとんど遅れることなくALPINAのニューモデルも発売されるくらいの緊密な関係を築いています。
そして、ALPINAの生産台数は、非常に小規模な職人集団であるがゆえに年産1,400台程度なのですが、そのうちなんと20%が日本で売れているということです。
ですのでALPINAの首脳部はよく日本に来ていて、その度に私の愛読誌CGのインタビューに答えていますし、リーマンショックの影響で参加メーカーが激減した2009年の東京モーターショーにおいても出展を続けるなど、日本市場を非常に重視する姿勢を鮮明にしています。
ALPINAのモデルはニコルが総輸入元となっていますが、BMW 正規ディーラーなら大抵どこでもで購入することができます。
これ、意外と知られていませんが、そういうわけでお値段以外は身近な存在です。逆にお値段は全く身近ではないです。私が欲しいような仕様でALPINA D3 Touringをコンフィギュレーターでカスタマイズしていくと、1200万円を軽く超えていきます。
両社のクルマの共通点・相違点
MもALPINAも、どちらもBMWの市販車をベースに高性能版を製作しますが、当然ながらクルマの性格は結構違います。
共通点
とんでもないハイパワー
これはそれぞれのクルマのスペックを見ていただくとすぐにお分かりかと思いますが、両社とも生産する車はとんでもないハイパワーです。
その数値はもう現実味がないと思えるほど。例えばALPINAの50周年記念車として発表された5/ 6シリーズベースのクルマに搭載されたエンジンは600psという、本格スポーツカーも真っ青なパワーでした。
Mは言わずもがなですね。
ランフラットタイヤは使っていない
これは両社ともスポーティネスを優先する観点からということですが、ランフラットタイヤを採用していません。
その代わりに、これまたとんでもなく大径のホイールを履いていますよね。3シリーズベースのモデルでも20インチという大きさです。そしてタイヤもミシュラン・パイロット・スーパースポーツなどの最高峰スポーツタイヤを装着しています。
相違点
では、次に相違点を見ていきましょう。
エンジンに関してはMは独自開発、ALPINAは市販エンジンベースに開発
Mシリーズはどれでもそうですが、搭載されるエンジンはBMWの市販車には搭載されていない、独自開発のエンジンです。M2はM135i/ M235iベースのエンジンということですが、これはむしろ例外的で、かつてはBMWがバルブトロニックの採用でスロットルバタフライを廃したにも関わらず、Mのエンジンは気筒ごとのスロットルバタフライを備えているというくらい違っていました。
一方でALPINAのエンジンは、あくまでBMWの市販エンジンをベースに開発されています。と言ってもまるで別物かと思うほど手が入っていまして、先代のB5(5シリーズベース)などはスーパーチャージャーで過給して、「世界最速セダン」の名をほしいままにしたのはまだ記憶に新しいところです。
今でもALPINAのエンジンは、BMWの4.4LV8や、3L直列6気筒ベースに、吸排気系や過給器までデザインし直すことで高性能を得ています。
それぞれの特徴
Mは最近になって非常に前面に押し出されている気がします。
これはBMWブランド本体ではどうしても環境対応の観点から高性能モデルを販売し辛いというのがあるのでしょうが、そこはそれアウトバーンを持つ国です。スピードへの欲求というのは果てしないものがあるのでしょうね、各メーカーともMのようなサブブランドに高性能版の生産を任せています。メルセデスのAMG、アウディのRSなどですね。
ですが、あくまでメーカーの範囲内、という感じです。スピードリミッターのカットはオプションですし、明確に一般道向けではなく、むしろサーキット向けの性格付けがされています。自分で確認したわけではないのですが、ボディ構造も別物という噂があり、市販モデルと同じなのは外見だけという噂もあるくらいです。
一方で、個人的な思いですが、ALPINAにはサーキットは似合いません。非常に豪華な内装と、スペシャルな外装を見にまとっていますが、過剰な性能を発揮する場はあくまでアウトバーンです。そして、ALPINAは250km/h紳士協定には参加していませんので、スピードリミッターはありません。ですので、カタログを見ると最高巡航速度320km/hとか平気で書いてあります。
今またさらっと言いましたが、この最高「巡航」速度というのもALPINAの伝統です。つまり、限られた状況で瞬間的に出る最高速ではなく、そのスピードで巡行できる、つまり常用できる性能を誇示しています。
さらに、ALPINAはフロントスポイラーやボディサイドをめぐるALPINAのラインと、細かいフィンで構成されるALPINAクラシックホイールが特徴的な外観を与えています。
そして、乗り心地が素晴らしくいいのもALPINAの特徴です。あれだけのパワーを持ち、安定性も高いのになぜこんなに乗り心地がいいのかと不思議に思うくらいです。
個人的にはALPINAが好き!
もちろんMも好きです。最近ではなぜか急にX6Mの凄さに気づくなど、M大好きにもなっておりますが、それでも私はどちらか選べと言われたらALPINAを選びます。
まず何より、あのALPINAブルーがかっこいいです。3シリーズベースのD3やB3では40万円近くする激高オプションなのですが、ALPINAを買うなら必ずこの色にしたいですね。
そして、豪華な内装です。ぜひ、ALPINAのHPでご覧いただきたいのですが、これがベースモデルとなったクルマとは段違いの豪華さなんですよね。こんな豪勢な車内で運転して見たいです。最近はM3などもシートが素晴らしいものが装備されているのでそちらも捨てがたいのですが・・・。
そして極め付けは、日本では考えられないようなモデルが手に入ることです。例えば、D3/4 BITURBOやD5 TURBOといった、ディーゼルの高性能モデル。ドイツではこうした高性能ディーゼルはBMW本体でも出しているのですが、ALPINAはBMW以上にディーゼル導入に積極的です。3シリーズでいうと、先代のE90の時からディーゼルモデルをラインアップしていました。本家BMW ではディーゼルが日本ではなかったにも関わらず、です。
そして、必ず7シリーズにも高性能モデルが存在しています。さすがに今までM7というモデルは聞いたことがありませんが、ALPINAではB7という、7シリーズベースのモデルがあり、G11/12ベースのモデルも既にラインアップされています。
一度だけ、かなり昔ですがToto BMWさんのイベントでALPINA B5とM6を乗り比べたことがありますが、M6は高性能ぶりを隠そうともしない獰猛な猛獣だとすると、ALPINAはあれだけ高性能なのに素晴らしく乗り心地がよく、まるでタキシードに身を包んだトップアスリートのようでした。
ALPINAはBMWにとっても心強いパートナーなんでしょうね。
AMGも当初は独立したメルセデスのチューナーとして存在していましたが、今はメルセデスベンツ傘下の子会社になっています。AMGはハンス・ヴェルナー・アウフレヒト(Aufrecht)とエアハルト・メルヒャー(Melcher)がグロース・アスパッハ(Großaspacha)で設立したからAMGで・・・なんていっていたらいつまでたっても記事が終わりませんね。
ですが、あえてBMWはALPINAを傘下に入れずに独立したメーカーとして緊密に連携し、かつMモデルも本体で出しているというところが、BMWがいかにスポーツドライバーを大事にするかが現れていると思います。
ALPINAはこれからも、BMWのスポーティネスを高めた素晴らしいモデルを生産し続けて、BMWの高性能ぶりを世に知らしめて欲しいですね。
今まであまりご存知なかった方も、ご存知だったけど興味がなかったという方も、少しだけALPINAにもご注目していただけたらと思います。
では、今回はこの辺で失礼します。ありがとうございました。