F30系が発売された時に不思議だったのが、ほとんど同じと言っていい320iと328iの価格が大きく違ったことです。
同じエンジンなのに…
もちろん、320iにはない装備が328iには沢山装備されています。ですが、100万円近くの価格差をつける程かというと、中々正当化するのは厳しいと思いました。
後期型の320iと330iも同様の事態が起こりましたが330iは短命に終わりました。ですがその疑問にさらに拍車をかけたのが代わりに登場した330eの価格設定。PHVのシステムがあるにも関わらず330iと変わらない価格。
PHVのシステムなんていかにも高そうなのに、なんででしょう?
実はディーゼルもバーゲン価格
そもそも、320iと320dの価格差が20万円程しかないというのも妙な話です。
マツダを見てみると、ガソリンとディーゼルの価格差なんて、50万円くらいはあります。もうこうなると、わざわざディーゼルを選ぶのも躊躇う価格差ですが、これがむしろ正常な姿だと思っています。
ディーゼルは以前もお話ししたように、高コストなんですよ。長い距離・長い時間乗って価格差の元を取るんです。ですので、たった20万円しか変わらないBMWの価格設定の方がおかしいんです。
PHVだとどのくらい高くなるの?
現行の330eは、平たく言えば320iにPHVのシステムを追加したものと考えられます。この価格が両車の価格差90万円くらいということになるでしょう。実際には装備品との違いなどでPHVシステムの価格はもっと低いかも知れません。
中々比較するものがないのですが、メルセデスのCクラスを見てみると、C250にPHVがついたと考えることができるC350eは50万円高。
BMWより価格差は小さいですが絶対的なお値段はBMWが550万円代なのに、対して700万円代!高すぎです。これだったらE220Dの方がいいような気が…買う人いるんでしょうか?いますよね。今は環境性能の高い製品に投資するのをアピールする時代ですから。
今になって欧州車がPHVを出している理由
PHVに限らず、ハイブリッドは町中でのゴーストップが多い日本向きで、高速走行が多いヨーロッパはディーゼルの方が向いているという論調が支配的でした。
でも、本当にそうですか?ロンドンとかパリって、東京と同じように渋滞ヒドいですよ?ドイツだって、いつもアウトバーンでぶっ飛んでいる訳ではないですよ?都市部の街中ではそれこそ日本と変わらない頻繁なゴーストップがありますよ?
私は、上記のような理由は一面で真実としてはあるものの、実はただ単に規制の関係から優先順位が前後しただけだと思っています。
ヨーロッパでEURO6が導入されるまで、日本は世界でも有数のディーゼル規制(ポスト新長期規制)が厳しい国でした。そのころの欧州車メーカーの生産車はEURO5対応が主で、EURO6対応はオプションでした。ですので、一応日本に導入しようと思えばできたのですが、EURO6対応車はコストも高く、それにディーゼルに対するアレルギーが異常に強い日本では売れないと考えたのでしょう。結局はメルセデスのE320CDIしか入ってきませんでしたが、現在のディーゼルの隆盛を見ると、この段階でEクラスにディーゼルを導入したメルセデスの戦略は素晴らしい英断だったとしかいいようがありません。
一方の日本ではハイブリッド全盛。プリウス、アクアが売れまくっていました。
日本人の誰もが思っていると容易に想像が付くのですが、ハイブリッドに関しては日本に一日の長がありそうな気がします。ですがここの所軒並み発表された欧州メーカーのPHVは勝るとも劣らぬ完成度で、燃費性能もあっという間に日本車が追いつかれ、抜かれそうになっています。これは各欧州メーカーが本気でPHVを開発していることの現れですが、これは別に日本市場に殴り込んでくるためでは決してなく、とんでもなく厳しい排ガス規制が課されることになったからなんですよ。
欧州車メーカーが悲鳴を上げる!かなり厳しい排ガス規制
ヨーロッパの排ガス規制は窒素酸化物の排出量で規制するので我々日本人にはちょっとイメージしにくいです。ここでは詳しくは述べませんが、新しい排ガス規制はEURO5から窒素酸化物等を約5分の1以下のレベルまで低減させなければいけないんです。2020年まで段階的に導入されるとはいえ、現状ではとてもではないですがクリアできない程厳しい規制で、各メーカーは一斉に悲鳴を上げました。
もうお分かりですよね。この厳しい規制をクリアするために「飛び道具」、PHVに頼ったというわけです。
環境対応が重要
この規制では、メーカー全体での窒素酸化物の排出値の平均が規制を越えると、一台当たりいくらという罰金がメーカーに科せられます。アメリカにける「ガス・ガズラー・タックス」、燃費に関する規制に似てますね。
ですので、場合によっては、売れ筋モデルの排気ガスが規制値を上回るようですと、売れれば売れるほど罰金が膨らむ恐れもあります。
これを防ぐためには、メーカーとしては平均値を下げるクルマが売れて欲しいですよね。
だいぶ見えてきましたか?
ここでBMWのプライスリストを見て見てください。
低燃費車、つまり排出ガスが少なくて環境性能が高い車ほど割安になっていると思いませんか?ディーゼルやPHVの値段、絶対的には通常のガソリンのベースモデルより高いですが、想像するほどの高さではないと思いませんか?
これは上記の事情から、原価に対して一律の利益率を付加して決めた価格ではないからだと私は思っています。
今から新規制でも戦える環境対応車を多く売っておかないと、将来罰金で苦しむのが目に見えているので、現在から対策をしているのではないでしょうか。
こう考えると、X5やF30のPHVが、ベースモデルが購入対象となる人にとって高すぎなく感じる価格設定がされていることに納得がいくというものです。
これは日本車もうかうかしていられませんね。メルセデスのCクラスやBMWの3シリーズが軽々とプリウス並みの燃費を叩き出して、しかも比較的ユーザーに対する負担を少なくして売り出してきているので、せっかく今まで時間をかけて開発してきた市場をあっという間に席巻されかねません。
まとめ
ハイブリッド車には現状まだまだ課題が多いです。直ちにユーザの負担になるものではないのですが、例えばバッテリー交換の費用。何年後に交換が必要となるかわかりませんが、一説によると何十万円という単位、下手をすると百万円くらいかかるのではないかと言われています。
また、実はハイブリッド車はバッテリーを生産する過程を考慮すると、ガソリン車に比べて環境負荷がそう低いわけでもないことがわかってきています。
こうした課題を抱えつつも見切り発車し、開発コストは将来長期にわたって、場合によっては新型車でも同じシステムをキャリーオーバーして回収する覚悟で今はバーゲンプライスで売っていかなければいけないのが、欧州メーカーが追い込まれている苦境を如実に表しています。
こう考えると、BMWが矢継ぎ早にX5、3シリーズとPHVを設定したのも頷けます。BMWの稼ぎ頭であるこの2車種に設定する事で、低排出ガス車の比率を少しでも高めるとともに、投資の回収を少しでも早めようということでしょう。
一方でメルセデスはSクラスにハイブリッドを設定していることやC350eの価格をみる限り、今はまだイメージを植え付けるだけに留めておいで将来の安定的な売上に繋げるという、もう少し長期的な視点で考えているような気がします。
こう考えると、日本の規制なんてぬるま湯ですね。ヨーロッパではメーカーを厳しい規制で「鍛える」形になっていますが、日本では相変わらず、規制によってメーカーに過度の負担を強いない、「保護する」構図となっています。何年後かにこの差が出てきて、日本車の競争力が相対的に下がるなどということがなければいいのですが・・・取り越し苦労ですかね?逆に日本のハイブリッド車にとってはこの欧州排ガス規制の厳格化をチャンスと捉えて攻勢をかけるべきじゃないかと思うんですが…
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
今回はこの辺で失礼します。