i3やi8でのフルカーボンボディの採用を始めとし、BMWはカーボンの採用に積極的ですよね。新型5シリーズもルーフはカーボンとなるらしいのですが・・・。
自動車のボディ素材の変遷
自動車のボディと言えば、やはり「鉄」を思い浮かべる方は多いと思います。実際、運動性能や軽量化が必要なクルマ以外は、スチールのボディであることが一般的です。
一方で、運動性能や環境対応の観点から軽量化が必要とされ、コストをかけていいクルマの場合は、アルミが用いられていたりします。総アルミでなくても、ドアやボンネット、トランクリッドといった、一部分だけでもアルミのクルマって増えてますよね。
さらに軽量化を進めているクルマは、カーボンを使用しています。カーボンは軽量かつ頑丈なのですが、何分にも価格が高いこともあってなかなか普及しませんが、先にあげたiシリーズの他にも、7シリーズの「カーボンコア」ボディやフェラーリなどのスポーツカーで使用されるようになって来ました。
この流れ、何かに似ている?!
もしあなたがクルマに関わらず乗り物は全部好き!という方であれば、最新型の航空機ではカーボンが多用されていることはご存知かと思います。そう、今や「ヒコーキ=ジュラルミン」の時代ではないんですね。航空機というのは、誰でも想像がつく通り、軽量化が命です。かといって、過度な軽量化による強度の低下というのは、軽量化よりも忌むべきものですよね。
ここまで話して来て、「そうか、クルマも航空機の様になっていくのか」とお考えの方いらっしゃると思いますが、実は私が申し上げたいのはそうではないんです。
もっとこれからのクルマが進む道を示唆している乗り物があります。
それは・・・ロードバイクです。あの、「ツール・ド・フランス」などで使われている、ハンドルが羊の角の様なカタチをしている自転車ですね。ロードバイクにおいても軽量化は命です。これは、自転車で一番キツい登りを考えてのこととなりますが、それこそ限界まで来ると1g軽量化するのにウン十万円(!)の世界です。
このロードバイクにおいて、かつてメインのフレーム素材はスチール(正確にはクローム・モリブデン合金、俗に「クロモリ」と言います。)、そして軽量化を目指した結果オールアルミのフレームが登場し、今ではカーボンフレームが主流になっています。既にオールアルミフレームは普及価格帯のもの。
これ、クルマと比べると驚きです。だって、オールアルミボディのクルマなんて今だってそうそうないわけで、一部高級スポーツカーとかにしか使われてないわけですから。
さらに言えば、今ではホイールのみならず変速機すらカーボンで作られています。流石にこれは最高級のものに限られますが、ムービングパーツすらカーボンにして軽量化を図るというのは、すごいですよね。言うなれば、高級ロードバイクに乗るのは、クルマでいうとF1マシンに乗っている様なものなんです。
新型M5がルーフにカーボン
2017.8.21
BMW M5 新型、カーボン製ルーフ採用へ…歴代モデルで初
BMWの高性能車部門、BMW Mは8月18日、新型『M5』にカーボンファイバー製ルーフを採用することを明らかにした。
カーボンファイバー製ルーフはこれまで、BMW Mの一部モデルに採用されてきた。M5の市販モデルへのカーボンファイバー製ルーフの導入は、新型が歴代M5で初となる。
カーボンファイバー製ルーフは、軽量化が目的。車両の重心高を引き下げる効果も狙っている。
なお、新型M5には、新開発の4.4リットルV型8気筒ガソリンツインターボエンジンに4WDの「M xDrive」を組み合わせる。カーボンファイバー製ルーフの採用で、さらなる運動性能の向上が見込まれる。
写真を拡大写真を拡大写真を拡大写真を拡大写真を拡大(レスポンス 森脇稔)
これ自体は驚くべきニュースではありませんよね。だって、M3/M4は既にそうな訳ですし。ですが、こちらのニュースと合わせて読むと訳が分からなくなって来ます。
2017.8.17
BMW M3 と M4、カーボン製ドライブシャフト廃止へ…狙いは?
BMWのドイツ本社は8月11日、『M3セダン』と『M4クーペ』のカーボンファイバー製ドライブシャフトを、2017年11月生産分から廃止すると発表した。
写真を拡大写真を拡大(レスポンス 森脇稔)
この記事、私の引用漏れではありません。本当にここで終わってしまっているんです。私も「えええ?!」となりました(笑)。
ですが、よーく考えてみるとわかります。
先のロードバイクにおいて、アルミフレームの欠点とされていたのは、正に素材そのものの特性からくる乗り味でした。つまり、「漕ぐとよく進むけど、乗り心地が硬い」というものです。
ご存知かも知れませんが、アルミって「しなり」がありません。かつてCGで読んだ、フェラーリ360モデナ(オールアルミボディを採用した初めてのフェラーリです。)の記事を読んだ時にも、ロードバイクと同じ様なことが書いてありました。つまり、路面のショックがガツンとくる、と。
一方で、クロモリやカーボンのフレームは「乗り心地がいい」と一般的には言われます。これは強度を確保しながらも多少のしなりを許容する素材であるために、振動を吸収するからなんですね。また、強度が欲しい部分は強度を出し、ある程度しなりが必要な部分はあまりガッチリ作らない様にする、といった加工がしやすい素材であるということもあります。
因みに、私が(乗らないのに)持っているロードバイクは、クロモリフレームにカーボンフォーク(フォークというのは前輪を支えている部分です。)で、剛性がありつつも乗り心地に配慮され、長距離を走りやすいものでした。この様に、自転車でも素材を使い分けています。もちろんクルマも同じですよね。強度が欲しい部分は高張力鋼などを使い、トランクリッドなどはアルミやカーボンというのはよくある話です。
ここでM5のルーフを考えてみると、これは明らかに重心から最も離れた高さにある部分を軽量化しつつ、ボディ剛性を確保する為でしょう。オールカーボンにしなかったのは、コストの関係でしょう。もしフルカーボンだったら、M5の金額が3000万円近くになってしまいます(笑)。
では、M3/M4のドライブシャフトでカーボンを廃止したのはなぜでしょうか?これは、カーボンのしなりのある素材特性が合わなかったからだと思います。つまり、カーボンで望む剛性を得ようとするより、アルミなどで同等の剛性を確保した方が安価に済み、かつあまり影響のない範囲の重量増でしかなかったのではないでしょうか?
要するに、カーボンは素材的にドライブシャフトに向いてなかった、ということかと思います。
いずれはクルマもフルカーボン化?!
ロードバイクの流れから考え、かつF1などのレースにおける最先端技術を見ているとそうなりそうな気はしますね。
ですが・・・私はそうとも言い切れないと思います。確かに、今やロードバイクよりも遥かに高い強度が必要なマウンテンバイクですらカーボンフレームになっていますが、航空機はまだまだオールカーボンまでは行っていません。
やはり、「適材適所」が大事なんですよね。クルマのボディに関してはカーボンが良さそうですが、それですら、衝突安全性を確保しない限りアウトです。また、カーボンの価格が劇的に下がらない限り、フルカーボンボディはコストの関係で非現実的でしょう。
ただ、個人的には、足回りにカーボンは合うのではないかと思っています。既にカーボンのブレーキローターはありますが、もっと進めてバネ下重量の提言を考えると、サスペンション周りでカーボンの活躍の場はないでしょうか?もちろん、劣化したカーボンがいきなり折れたりしない様にする技術開発が必要でしょうが(実際、ロードバイクで劣化しているカーボンフォークに気づかず、突然折れて大怪我という話は聞きます。)、技術の進展があれば不可能ではないでしょう。
カーボンはまだ比較的新しい素材ですので、どこに使えば最も効果的なのかなどのノウハウの蓄積が、従来からある素材に比べてまだまだの部分があります。加工技術だってそうです。ただ、軽量・頑丈という非常に優れた素材ですので、自動車メーカーのみならず素材メーカーもカーボンの研究を進めて欲しいですね。
ちなみに、カーボンと言えば・・・実は日本の企業が最先端です。シェアのナンバーワンは、あの東レさんなんですよ。益々頑張ってほしいと思いませんか?
では、今回はこの辺で失礼します。ありがとうございました。