40代子持ちのクルマ好きが、愛車のBMW 320dツーリングを評価するとともに、ちょっとだけ日々を楽しくするクルマのある生活の話題をお届けします。

雪道をBMWのFRで走れるのか?

BMW

「雪道を走らなければいけない」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?チェーン、スタッドレスタイヤ・・・そして突き詰めると4輪駆動でないと無理なんじゃないか?と思いますよね。今回は私が実際に走って考えたことをお話しします。

雪道走行の定説

雪道で強いのは、駆動方式順にいうと

4WD>前輪駆動>後輪駆動

と一般的に言われるのはご存知かと思います(ここではあえてエンジンの搭載位置には注目しておりません。)。そして、4WDにスタッドレスタイヤを装着していれば、「雪道でも『普通に』走れる」という誤解(あえて誤解と呼ばせていただきます。)がまかり通っています。そしてさらに、「FRで雪道なんて論外」ということを言う方もいらっしゃいます。

本当ですか?かねがね私は疑問に思っていました。こうした疑問もあって、大雪の中わざわざ雪道ドライブをしに行った、と言うのも、理由の一つです。

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摩擦円が関係してくる。

かなり前の話になりますが、私がお世話になっているディーラー、Toto BMWさん主催のサーキット走行イベントに行った記事の中で、事前講習でモータージャーナリストで現BMWドライビング・エクスペリエンスのチーフインストラクターを務める五味さんから「タイヤの摩擦円」についての講習を受けたことを申し上げました。

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ここで摩擦円の話を私がし出すと、この記事がとんでもない長編記事になってしまいますので、一番うまく説明してくださっているサイトを紹介しておきますので、よろしければご一読ください。

摩擦円 -MITSUBISHI MOTORS- クルマの学校

摩擦円を物理する

では、さっそく雪道ではそれぞれの駆動方式ではどうなるのか、考えてみましょう。

雪道走行:発進の場合

前輪駆動

前輪駆動の場合、エンジンの搭載位置はほとんどの場合、と言うか100%フロントです。ですので、フロントに大きく荷重がかかっています。

この時、クルマが前進しようとすると、クルマの進行方向最先端にあるタイヤが駆動輪となりますので、深雪の中からの発進でも抵抗にならず発進できるばかりか、ゆっくりと発進する限りにおいては、全車重対比で大きめの荷重がかかっていますので、しっかりと路面を捉えて発進できます。

後輪駆動の場合

後輪駆動となると、エンジンの搭載位置によって駆動輪である後輪にかかる荷重は違ってきます。

上のFFの例で考えると、雪道でも前進するトラクションを稼ぐにはしっかりと駆動輪に荷重がかかっていることが必要です。では後輪駆動で一番しっかりとリアに荷重がかかっているクルマは?となると・・・RRです。ポルシェ911が一番に想い浮かびますが、もっと身近なところではバスがそうですね。

では次に後輪に荷重がかかっているのはと言うと、ミッドシップ、MRです。今はミッドシップというと、フェラーリの一部やランボルギーニですかね。

そして一番荷重がかからないのが我らがBMWが採用するFRです。

そして同時に、後輪駆動車の場合は、後ろからクルマを押し出そうとしても、深雪からの発進の場合には前輪が雪の抵抗を受けます。ということは、前輪の荷重が軽ければ軽いほど発進しやすいということになりますので、理論上は

RR>MR>FR

の順で発進しやすいということになりそうです。荷重がしっかりかかっていないとどうなるかというと・・・答えは簡単です。駆動輪が空転します。

これが「FRが雪道では不利」と言われる最大の理由です。

4WDの場合

これは前輪駆動の場合と後輪駆動の場合を合わせて考えてみれば、前輪抵抗は問題にならず、エンジン搭載位置がどこでも駆動輪にはしっかりと荷重がかかっているので、最強ですね。

雪道走行:「曲がる」

さて、発進して走行していると、日本では必ずカーブに行き当たります。今度はその場合のことを考えてみましょう。ここで初めて摩擦円の話が出てきます。

FFの場合

FFの場合、前輪は進行方向に向かってクルマを引っ張っていく役目を果たし、後輪はそれに追従してクルマを安定させる役目を果たします。これはドライでも同じですね。

ここで後輪には駆動力がかかっていませんので、コーナリング中には縦方向のベクトルは発生せず、クルマが慣性で外側に膨らむ(=遠心力)ような方向に抵抗する横向きのベクトルのみが発生するわけです。摩擦円の理論において、タイヤのグリップの限界が円で示されますが、縦方向と横方向のベクトルが同時に発生して合成ベクトルとなった時に、そのベクトルが円の内側に収まっていればグリップしており、はみ出すとその方向に滑り出します。

雪道という、摩擦円が非常に小さい(=グリップが低い)状態で、単一方向のベクトルしか発生しないのは非常に有利です。従って、FFにおいては、理論上は後輪が横方向に滑り出すことは、常識的なスピードで走っている限りでは、あまりないと言えます。

ですが前輪は駆動力も受け持ちつつ、遠心力にも抵抗することが求められます。そうすると、合成ベクトルは容易に摩擦円をはみ出してその方向に滑り出しますよね。

つまり、ドライ路面と同じく、FFはアンダーステアを呈しやすいということになります。

後輪駆動の場合

後輪駆動においては、合成ベクトルが発生するのは後輪であり、前輪は遠心力に耐える方向にのみベクトルが発生します。

もう、ご説明は不要ですね。後輪駆動では、一般的には後輪が先に限界を迎えそうですよね。ですが、RRのように後輪にしっかりと荷重がかかっている場合はそうとも言えません。滑っていない時に耐えられる力というのは、上からの荷重が大きければ大きいほど、耐える力も大きくなります(静止摩擦係数×荷重)。ですので、前輪への荷重やらなんやらで発生するグリップとの兼ね合いですが、あまりにリアが重すぎると、リアはまだ耐えられても前輪が先に限界を迎えるということも考えられます。

ですが、ドライ路面と同じように、一般的にはポルシェ911でも、リアが先に限界を迎えて滑り出します。そして、リアが重いが故に慣性力も強く、滑り出したら一気にくるん!と回ります。これはMRでもそうですね。

BMWのFRですと、前後50:50の重量配分が売りですのでそういうことはなく、セオリー通りに最終的には後輪が先に滑り出してオーバーステアに移行すると思われます。

4WDの場合

4WDでは、駆動力を与えている限りにおいてはすべての車輪に合成ベクトルが発生しているので、そういう意味では一番滑り出しやすく、4輪がドリフトアウトしていきます。これもドライ路面で言われる4WDの特徴ですよね。その一方で、クルマを引っ張る前輪と、押し出す後輪が常に進行方向にトラクションをかけ続けるので、グリップしている範囲では車両の走行自体は安定します。

4WDの欠点でもう一つあるのが、4WD機構で重量がかさんでいるが故に慣性力も大きく、滑り出したら中々止まりません。

4WDであれば雪道を早く走れる、というのは幻想であることがこれだけでもわかりますね。圧雪の関越で猛スピードで走る4WD 車の多かったこと!慣れもあるのでしょうが、大丈夫だったのか、今でも心配です。あ、飛ばしていた本人ではなく、周りを巻き添えにしなかったかという方が心配です。運転している方は自業自得ですが、安全運転しているクルマが巻き込まれたらかわいそうですからね。

最後に「止まる」

停止の時はすべての車輪に進行方向とは逆のベクトルが発生します。ですので、4輪である限り、駆動方式に関係なくタイヤのグリップに依存すると考えていいでしょう。ここでいうタイヤのグリップとは、荷重も含めたグリップです。例えば低速走行時はリアヘビーな911は、ブレーキング時に前輪に荷重が配分されることで前後重量配分がよくなり、よく止まると言われます。よくポルシェのブレーキが絶賛されるのはこういうのも原因らしいですよ。

いずれにしろ、「止まる」に関してはどのクルマも同じです。例えばBMWで考えると、320iと320i xDriveを比べてみても、変わりはありません。むしろxDriveの方が車重が思いが故に慣性力が大きいので、ABSを効かせるまで踏み込んだら、停止までの距離は320iより長くなるでしょう。

結論:FRは発進が不利なだけで、他は同じ。

雪道や濡れた路面のような、極端に摩擦が低くて滑りやすい路面のことを「低μ(ミュー)路」と言います。「μ」は摩擦係数のことです。

低μ路では、ドライ路面では高速域でしか起こらないことが、低速域でごく簡単に起こります。ですので、雪道の峠を60km/hくらいで走るのは、極端にいうとドライ路面で100km/hでカッ飛んで行っているのと同じと考えるとわかりやすいです。

結局、FRでは発進時に不利なだけで、他はFFや4WDと変わりありません。ただ、雪道ではその発進ができないというのが一番の問題であり、一番多く遭遇する場面でもあります。ですので、「FRは雪道で不利」というのは一面では真実だと思います。

ですが、だからと言って4WDであれば早く走れるかと言ったらそうではないのは、上の解説でわかっていただけると思います。直線では安定しているかもしれませんが、2WDより短い距離でスピードを殺せるわけではなくむしろ長い距離が必要なわけですし、カーブだって早く走れるわけではありません。

こう考えると、市販車で雪道最強なのは・・・よく言われるようにスズキ・ジムニーです。車重が軽くて4WD、これ以上雪道で何を望むかというプロファイルですね。

ちなみに、上でポルシェ911やミッドシップを例に出しました。私は見たことはありませんが、911もカレラ4ともなると雪道の走破性は結構高いと聞きます。また、ミッドシップで4WDというとランボルギーニですが、以前、ランボルギーニのスノードライブレッスンも行われていたようです。いやーこれはまた豪気な話ですね。私もウラカンやアヴェンタドールで雪道をかっ飛んでみたいです(笑)。

で、我らがBMWですが、FRでも重量配分のバランスの良さで発進時にも後輪に十分なトラクションがかかる上に、DSCで滑ったらDTCに切り替えて発進すればいいので、中々の走破性を誇ります。

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実際、私が愛車の320dツーリングで完全圧雪となった関越道の関越トンネルー湯沢IC間や、凍結+圧雪の三国峠を超えた時も、なんの問題もありませんでした。発進でラフにアクセルを開けたり、カーブの立ち上がりでトラクションを早めにかけすぎたりするとお尻を振りましたが、カウンターステアを当てると同時かそれより早いくらいのタイミングで、DSCが介入して是正してくれます。

最近のハイテクで武装したFRは、言われるほど雪道に弱いわけではなく結構いけますよ、ということです。実際、最近はネット上でも、BMWやメルセデスがスイスイ雪道を走って行っている!と行ったような話もよく見かけるようになりました。ただし、もちろんのことですが、チェーンやスタッドレスなど、適切な滑り止めをしていることが大前提です。

FRは雪道で言語同断!なんて主張されている方、未だにちらほら見かけますがその認識は時代遅れですよ!ちょっと発進が不利なだけです(笑)。FF(プリメーラ)でも4WD(インプレッサ)でも雪道をスタッドレスで走った経験がある私ですが、一番安心できたのは今回のBMWでしたから。

というわけで、この記事のタイトルの質問に対する答えは「YES」です。

ですが、雪道を走る際にはくれぐれもご注意くださいね。大丈夫、周りの車もスピードを落としていますし、怖いようでしたら周りよりも少しだけ遅いスピードで走って、早いクルマにはどんどん先に行ってもらうといいですよ。

そして、雪道では駆動方式に関わらず、特にカーブにおいて、合成ベクトルを発生させない様にすると、タイヤのグリップを最大限発揮できるのも、摩擦円の説明からお分かりかと思います。つまり、「加速もせず、減速もせず」の状態をキープするのがコツです。アクセルを離したらダメですよ。エンジンブレーキが効いて減速方向のベクトルが加わって、合成ベクトルが発生しちゃいますから。

さて、いかがでしたでしょうか?文系脳の私が頑張って理系なことを書いてみました。理系脳の方、もし私が間違った認識をしているようでしたらご面倒ですがご指摘していただきたくお願いいたします。

いやー、今回は長くなった上に難しい話でしたので大変でした(汗)。では、今回はこの辺で失礼します。ありがとうございました。